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県を超えて|日本に広がる相互学習の仕組み


■小さな町の秘密

スペインのバスク自治区のサン・セバスティアン。人口わずか15万のこの地方都市にミシュランレストランが集中する。

3つ星を獲得したスペインの全レストラン7店舗のうち3店舗がこの地に集中。さらには1つ星、2つ星に至っては、合計で16ものレストランがこの地に存在している。

なぜそんな小さな街にこれほどの名シェフ、名レストランが固まっているのか?

孫 泰蔵さんから、そんな驚きのレポートがスペインから入った。

泰蔵さんのレポートをまとめると、当地の料理界では学び合いのカルチャーがあり、開発したレシピを惜しげも無く教えあい、全体のレベル向上に努めているのだと言う。

結果、この地域のシェフのレベルが上がり、この地の料理を食べに世界中から人が集まってくる。

レシピを教えると損するのでは?と思うのは、旧時代的な考え方。実際には、教えあった方が、失うものより、得るものの方が多いと言うことを、彼の地のシェフは理解しているようだ。

これは、相互学習がもたらす、集団進化の典型的な好事例だと思われる。同じようなことが、僕が関わっている「にっぽんの宝物」でも起き始めている。

こうしたことが日本でも起き得るのだということを知って頂きたいので、その一旦を御紹介してみたい。

●にっぽんの宝物 https://www.undiscovered.jp/

宝物プロジェクトでは、年間数回にわたるセミナーを地域ごとに行なっているのだが、商品の企画やブラッシュアップを会場にいる参加者全員で行っている。

セミナーの中盤で、各事業者が、自社商品を持ち寄り、商品に対する思い、こだわりを発表(=アウトプット)する。これに対し、会場にいる参加者全員が、感想、改善案(=フィードバック)を言い合う。

地方で、商品の感想を述べさせあうとしても、最初は「いいですね」としか言ってくれない。それはそうだ。地方では事業者同士が知り合いであることが多いので、面と向かって否定的なことは言いにくい。

そこで、「良い点」、「悪い点」、「改善案の」三視点で感想を述べあうことをルール化する。

最初は戸惑いながらのフィードバックとなるが、同業者ではなく、異分野の人を入れておくと、ぽつり、ぽつりと良いフィードバックが出るようになってくる。

先週、熊本で行われたセミナーでも面白いフィードバックが会場から出された。

熊本県で家族で豆腐を作っている牧野 耕丈さんと牧野 恭子さん。兄と妹でお父様の豆腐屋を助けている。

これまでとは違う商品を作ろうと、妹さんが豆腐を使ったスイーツ作りに挑戦している。抹茶を使った豆腐のシフォンケーキに対して、本職のケーキ屋さんがフィードバックを返してくれた。

「この抹茶の色味がとてもいいのですが、日を置くと色が変わってしまう可能性があります。クロレラを入れてみてはいかがでしょう?ケーキなんかではよく使う素材なんですよ。」

へー、そうなんだ。

異分野の事業者が交流し合うと、これまでとは異なった知見を手に入れることが可能になる。さらに講師である我々が、全国の最新成功事例を次々に紹介していくので、ますます一層、取り込める素材が増えていく。

異分野の人と商品開発をする面白さ、スピード感を理解し始めると、セミナーに来ることが楽しみとなり、アウトプットをすることも、フィードバックを返すことも楽しくなって来る。

さらに、相互学習を繰り返すと、事業者同士に親近感が芽生え始める。これが共同開発にもつながっていくのだ。

 

■県を超え事業者交流

先日、21日(水)に熊本でセミナーが開始され、わずか、3日後にこの以下の投稿がなされた。

これは、僕が投稿してくれとお願いしたものなどでは決してない。事業者さんが、こうした理想的な動きをどんどん進めてくれているのだ。

熊本の相良村から世界に挑戦したいと、こうした能動的な動きが次々に出てくる牧野さん。5月に開催された「Japan グランプリ」で素晴らしい話を披露してくれた。

高知にすごい豆腐屋があるという僕のフェイスブックの投稿を見て、どうしてもその事業者に会いたくなったのだそうだ。厚かましいながらも、その味を自分の舌でも確かめて見たい。高知を訪問してもいいでしょうかとその事業者に願い出た。

高知で豆腐屋を営む三代目、谷脇さん(谷脇行彦さんと谷脇 まりさんのご夫婦)。驚きながらも、わざわざ自分の味を九州から見にきたいと言ってくれる事業者さんにあって見たいと考え、この申し出を快く引き受けた。

牧野兄妹は高知に渡った。かかる経費だって、そんなに安いものではない。

しかし、そうした行動がきっと自分に返ってくると信じ、二人は高知へと飛ぶ。

谷脇夫婦が暖かく二人を迎え入れてくれた。町中の小さな豆腐屋さんである。

早速、噂の豆腐を口にした。驚いた。なんというきめの細やかさ、なんという味わい・・・。

「どうやったらこんな味が出せるんでしょうか?」 「そうですね、じゃあ作り方を教えましょうか?」

なんと、谷脇さんは、熊本からやってきた牧野さんにレシピを教えると言いだしたのだ。わざわざ高知までやってきた同業者に敬意を払っての行為であった。これには牧野さんも驚いた。

その懐の深さに感謝しつつ、早速、熊本に帰り、この豆腐を作ってみることにした。これまでにない豆腐が作れるようになった。

感謝をしつつ、熊本大会にエントリーし、見事に賞を獲得。全国大会に出場できる運びとなった。全国大会には、高知の谷脇さんも当然、上がってきた。そして同じ舞台に上がり、グランプリを争うことになったのだ。

レシピを教えた相手、教えられた相手として舞台で戦うことになった気持ちはいかほどであったことだろう?

しかし、両者に戸惑いはなかった。熊本の牧野さんは、レシピが教えてもらったものであることも、グランプリのプレゼンで正直に伝えた。谷脇さんのお陰で、自分は今、舞台に上がることができたのだと・・・。

この話は多くの審査員の心をうった。

最終審査が発表された。

調理部門、スイーツ部門、新体験部門の3部門のトップ3事業者の中から、さらに上の最高位を選ぶ、2017年の「スーパーグランプリ」に選ばれたのは、高知県の谷脇さん、その人だった。熊本県の牧野兄妹も、調理部門で見事、準グランプリに輝いた。

付け加えておくが、敵に塩を送ったから、スーパーグランプリに選ばれた訳ではない。実際にその商品、そして人物が素晴らしかったから選ばれたのだ。

 

■相互学習、相互成長

高知の谷脇さん、熊本の牧野さんに共通する要素がある。

それは、学びに対する貪欲さだ。

高知にまで学びに行こうとする牧野さんの行動力に対して、実は谷脇さんもセミナーに出るのを欠かしたことはなく、常に新しいものを取り込もうという姿勢に余念がない。そこで九州から学びたいという姿勢があれば、当然、学び合う仲間として、技術を与え、共に高みに登ることを希望する。

そうした姿勢が、両者をグランプリへと駆け上がらせていったのだと思われる。

両者の絆は、グランプリの結果、より一層強まっていった。来たる7月7日の七夕、熊本と高知のこの2つの事業者は高知で再び、出会うことになる。グランプリの成果をねぎらいながらも新たに学びあおうと・・・。

今度は、高知の名門旅館、天皇もお泊まりになるという城西館の料理長が、彼らの豆腐を使った新作料理を披露することになっている。

これらをお膳立てしてくれたのは、高知事務局の松田 高政さん、さらには城西館の高島田 裕人さんら・・・。

相互学習の場を設け、全国規模で学び合う機運を作ろうとしてくれている。素晴らしいことだと思う。

宝物プロジェクトの中に、こうした相互成長のカルチャーが着実に根付き始めている。

県を超えての学び合い、コラボレーション(共同での商品開発)がすでにあちこちで、同時多発的に起きつつある。今年は、さらにこうした動きを加速化する、面白い仕組みを作っていく予定である。

スペインのサン・セバスティアンは、1地域でこうした学び合いが集中しているという。

にっぽんの宝物では、こうした「学び合う地域」を全国に作り、さらに、その地域と事業者をデジタルネットワークで繋ぎ、最高の学びあいの場を構築したいと考えている。

この秋9月19日からそのデジタルネットワークの運用を開始する。

9月19日は、実はアクティブラーニング社の20周年記念の日である。その映えある日に全く新しい「相互学習」「相互成長」のコミュニティがウエブ上に登場する。

にっぽんの宝物は、2017年、新しいステージへと突入して行く。

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