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事件簿|Make Samurai great again!


■アメリカにて

トランプ政権下になって初めてのアメリカ。 入国審査は長蛇の列だった。もういつまでたっても自分の審査が始まらない。 こっちへ並べ、あっちへ並べとオフィサーが怒鳴り声を上げている。審査待ちの何百人という人たちもみんなブーたれていて、すごく雰囲気が悪い。 そんな時に突然、僕のお腹がトイレ・ファーストと叫び始めた。僕はちょっと待て、そんなワガママなことを言うなと言い聞かせようとしたが、僕の下層階級は理性を失っており、暴動さえも起こしかねない状況だった。 それは困る。 こんなところで反乱軍が放たれたとなると、生涯、自分の経歴に傷がつく。そんなことはくそったれだ。文字通り、くそったれだ。 僕は、ほぞを噛みながら、下層階級の要望をのんだ。何分も並んだ隊列を離れることの悔しさよ・・・。 こんなことは初めてだった。 上流階級が下層階級によって完全にコントロール権を奪われてしまった歴史的瞬間だった。 下層階級の突き上げは凄まじかった。トイレに行くと言ってるじゃないか?そこまで待たせないつもりなのか? こんなところでぶちまけて、お前らにもなんのメリットもないではないかと言い聞かせようとしたが、暴徒と化した下層階級に、そんな言葉が通じるはずもなかった。 「第1関門突破。メルトダウン開始しております。完全にコントロールを失っております」 朦朧としながらそのレポートを聞いた。もうどうでも良いとさえ、思った。いや、だめだ。指揮官が諦めてどうする。 能動的になれ!能動的になれ! やっとトイレに駆け込んだ。もうベルトを外すことさえ、地獄の苦しみだった。 ・・・解き放たれた。 ・・・終わった。 下層階級は無事、制圧された。 暴徒は、ゴゴゴーっと雄叫びをあげながら、トイレの奥底へと消えていった。 ふーっ。

 

■サムライの戦い

しかし、ドラマは終わらなかった。 ここはアメリカだ。戦いは続く。 個室を出ると、掃除婦のおばさんが牙を剥いてきた。 何語で話してんのかもわからない怒鳴りっぷりだ。 どうしてアメリカはこうなのか?その物言いはなんだ! 「どうしましたか?」 下層階級を抑えた上流階級には余裕があった。凛としたサムライの顔で、落ち着いた声で、掃除婦のおばさんに問いかけた。 「何か問題ですか?」 「何してるんだよ。ここは女子トイレなんだよ。」 ・・・へっ? な、なんと! サムライは突如、落ち着きを失った。周囲には、5、6人の違和感満載の女性が僕を睨みつけていた。 怒って当然である。 足早にその場を立ち去った。 下流階層の暴動は押さえられたのに、瞬間の判断ミスで、日本人としての尊厳を失ってしまった。 日本人の恥である。 Make Samurai great again!

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